2007年08月31日

奈良の妊婦搬送にかかわる報道について。

奈良・妊婦搬送中流産:最初要請の病院、受け入れに余力
 奈良県橿原市の妊婦(38)の胎児が救急搬送中に死亡した問題で、橿原消防署(中和広域消防組合)から最初に妊婦の受け入れを要請された県立医科大学付属病院(同市四条町)が、要請から約2時間のうちに、他の2人の妊婦を救急搬送で受け入れていたことが県の調べで分かった。病院に受け入れの余力がありながら、消防とのコミュニケーションの不備などで結果的にこの妊婦の受け入れができなかった。
 一方、大阪府警高槻署の調べで、この妊婦は妊娠24週(7カ月)で、胎児は胎内で死亡していたことが分かった。流産は22週未満で胎児が死亡する場合を指し、このケースは死産に相当する。病名は不詳。【中村敦茂】
毎日新聞 2007年8月31日 東京朝刊


てな記事を読んで、正直、わたしも受け入れてあげればよかったのにと思ってしまったが、 奈良医大の当直日誌が公開されていた。
これを読むと、当直医の先生、および病棟が限界に近い状態で稼働していることがよくわかる。

とりあえず、奈良医大を批判することはできない。
私でも同じような対応をした可能性が大きい。昼間ならともかく、夜間のかぎられた医療資源でできることはやっている。とりあえず、いま目の前にいる患者さんを救命することが先。そうでなければ、皆、共倒れになってしまう。
夜間、ということになればどこの病院でも受け入れ能力はそれほどない。
また、そもそも当該の患者さんは、大学病院でみるべき患者さんであるかどうかの検討も必要だと考える。

これだけやって批判される先生のモティベーションが低下しないことを祈るばかりです。


http://www.naramed-u.ac.jp/〜gyne/2007.08.28.html

以下、転記、

今般の妊婦救急搬送事案について

 去る8月29日、救急搬送中の妊婦さんが不幸にも死産にいたりましたことについて、誠に遺憾に感じております。
 今回の事案につきましては、マスコミを通じて、さまざまな報道がなされておりますが、当病院の産婦人科における8月28日から29日にかけての当直医師の勤務状況や当病院と救急隊とのやり取りについて調査しましたので、その結果を公表いたします。


平成19年8月28日の当直日誌記録より

(産婦人科当直者 2名)

時間 対応内容

8月28日(火)     夕方から抜粋

19:06         妊娠36週 前回帝王切開の患者が出血のため来院、診察後に帰宅
19:45         妊娠32週 妊娠高血圧のため救急患者が搬送され入院、重症管理中
09:00〜23:00     婦人科の癌の手術が終了したのが23:00、医師一人が術後の経過観察
23:30         妊娠高血圧患者が胎盤早期剥離となり緊急帝王切開にて手術室に入室
23:36〜00:08     緊急帝王切開手術
00:32          手術から帰室、医師一人が術後の処置・経過観察をする。重症のためその対応に朝まで追われる。妊婦の対応にもその都度応援する。当直外の1名の医師も重症患者の処置にあたり2:30ごろ帰宅

8月29日(水)

02:54         妊娠39週 陣痛のため妊婦A入院、処置
02:55         救急隊から1回目の電話が入る(医大事務当直より連絡があり当直医一人が事務に返事) 「お産の診察中で後にしてほしい」、そのあと4時頃まで連絡なし
03:32         妊娠40週 破水のため妊婦B入院、処置 (これで産科病棟満床となる)
04:00         開業医から分娩後の大量出血の連絡があり、搬送依頼あるが部屋がないため他の病棟に交渉
04:00頃        この直後に救急隊から2回目の電話が入る 「今、当直医が急患を送る先生と話しをしているので後で電話してほしい」旨、医大事務が説明したところ電話が切れた
05:30(病棟へ)    分娩後の大量出血患者を病棟に収容 (産科満床のため他の病棟で入院・処置)
05:55         妊婦Aの出産に立ち会う。その後も分娩後出血した患者の対応に追われる
08:30         当直者1名は外来など通常業務につく、もう1名は代務先の病院で24時間勤務につく


ちなみに胎盤早期剥離というのは、母子ともに生命の危険にさらされる産婦人科の緊急疾患としてはもっとも重要なものです。
きわめて迅速な対応が要求され、場合によっては母子ともに死亡します。
そういった患者さんを対応した後、お産が入り、さらに、他院からの緊急性が高いと判断される患者さんの受け入れ要請があるような状況では、医者だけでなく、看護スタッフの受け入れ能力も限界に達していることが予想されます。
電話での対応に時間をかけていられる状況ではありません。

これだけ頑張って批判をされては、やってられん、というところです。

人員の配置のあり方(その人員自体が枯渇していますが)や夜間の救急医療体制自体の見直しこそ、争点とすべきと考えます。問題を一病院や医師個人にすり替えても解決する問題ではありません。

基本的には、医療費(それも、建物を重視するんではなく、医師を含めた医療スタッフ全般の人的資源)にお金をかけない限り(=すなわち、医療費の値上げ)、新聞記者の皆さんが考えるような医療体制は確立できません。

そこまで踏み込んだ議論をすることが必要ではないでしょうか。
posted by Bluemoon at 22:43 | 千葉 晴れ | Comment(1) | TrackBack(0) | 医療ネタ
この記事へのコメント
年齢、妊娠○ヶ月など、
この女性に関する情報が錯綜しましたが、
どうやら担当医師はいなかったようです。

付き添いの男性とやらは生物学上のパパでしょう。

かかりつけの医師がいない妊婦なんて、
この日本にいたのですね。

数々の点で誠実さに欠いた妊婦さんだと思います。
Posted by つけめんデリック at 2007年09月26日 17:38
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